「……?」<br><br> なんだろう?と思って私は小首を傾げる。<br> 私が口をつけたストローに、炭治郎が口をつけると何か問題があるのだろうか。<br> さらに言うと今は、炭治郎が口をつけた後に私が口をつけている。<br> 何も問題はないように思えるのだけど。<br> <br>「い、いやぁ……その、俺、禰豆子や花子に注意されてたことがあってさ。男と女の子は同じ器を使ったり、同じ所に口をつけちゃいけないんだよって」<br>「?」<br>「そういやここでも、アオイさんに言われたりしたっけ。男子は男子用のコップがありますから、歯磨きはそれを使ってくださいって」<br>「?」<br><br> 炭治郎が何を言っているのかがよくわからない。<br> 私はさらに「?」の表情で首をかしげる。<br> <br>「……カナヲはこういうの、気にしない方なのか?」<br>「……よくわからない」<br>「そ、そうなのか?いやぁ、アオイさんなんかは特に厳しく注意してきたけどなぁ」<br>「……どうして?」<br>「いやぁ、同じ所に口を付けるのをさ、間接的な接吻みたいだって、よく言うだろ?」<br>「間接的な……?」<br>「そうそう。……カナヲ、接吻ってわかるか?」<br>「(ふるふる)」<br>「そうか。接吻って言うのは、好きな人同士が口づけをすることなんだ」<br>「!」<br>「だ、だから……その、カナヲが使っていたストローに俺が口をつけて、その後でさらにカナヲが口を付けたって言うのが、なんて言うか、その……」<br>「……!」<br><br> やっと、炭治郎が何を言わんとしているのかがわかった。<br> つまり私と炭治郎は、このストローを介して、間接的に接吻をしたと、そういうこと……?<br> しかも炭治郎は、接吻とは「好きな人同士が口づけをすること」だと言った。<br> それって、つまり、それって……<br> <br>「……」<br>「……」<br><br> 気まずい沈黙が流れる。<br> 「好きな人同士が口づけ」の「好きな人同士」に私と炭治郎が当てはまるのかどうかはわからない。<br> ただ、問題なのはそれに相当する間接的な接吻を、既にしてしまっているという事実。<br> 私も炭治郎も、徐々に顔が赤くなってきているのを感じる。<br> 恥ずかしい。<br> 照れくさい。<br> 今すぐこの場から逃げ出したい。<br> だけど不思議と、今ここで二人だけで過ごしている時間が続いて欲しいという気持ちもあって。<br> <br>「と、とりあえずさ」<br>「……」<br>「そろそろ晩御飯の時間だし、屋敷の中に入ろうか」<br>「!」<br><br> 炭治郎が屋敷に戻ることを促しながら私に背を向けてきたので、私は思わず炭治郎の手を掴んでしまった。<br> 自然と炭治郎の脚が止まる。<br> <br>「……カナヲ?」<br>「……」<br>「ど、どうした?カナヲ」<br>「……いよ」<br>「えっ……?」<br>「私、炭治郎と、間接的に接吻しても、イヤじゃないよ」<br>「……!」<br> <br> 自分で何を言っているのかわからない。<br> だけど、その言葉は自然と口をついて出てしまった。<br> イヤじゃないのは確かだった。<br> だから、炭治郎に「ごめん」って言われてもピンとこなかった。<br> 謝ることないのに、とすら思ってしまった。<br> なんだか胸の奥の辺りがムズムズとする。<br> この気持ちはなんなんだろうか。<br> <br>「カナヲ……」<br>「……」<br><br> 背を向けていた炭治郎が私の方に振り返る。<br> 夕陽に照らされた顔が綺麗だ。<br> <br>「……!」<br>「……」<br> <br> 突然、炭治郎が、私の唇を指でツン、とつついてきた。<br> どうしてそんなことをするのか。<br> そんなことになんの意味があるのか。<br> わからないけれど、なんだかすごくドキドキした。<br> <br>「……」<br>「!」<br><br> お返し、とばかりに私も炭治郎の唇を指でツン、とつついてみる。<br> 厚みのある、ガサガサとした男の子らしい唇のように思える。<br> 今、私達は向かい合って、お互いの唇に指をあてている。<br> その次に何をするのかどうかなんてお互いにわかっていない。<br> 今のこの状態はすごく照れくさいように思えたけれど、不思議とイヤな感じはしなかった。<br> <br>「へへ、カナヲとこうしてると、なんだかすごく落ち着くよ」<br>「!……うん、私も」<br>「……へへ。それじゃ、行こうか」<br>「うん……」<br> <br> こうして私達は、ただ見つめ合い、お互いの唇を指で触り合うという行為をしただけで、屋敷へと入って行った。<br> 私の胸の奥の辺りのムズムズはまだ収まらなかったけれど、でも見つめ合った時の炭治郎の顔はとても綺麗だった。<br> <br> (綺麗……)<br><br> 趣味、と言える程のものかもわからない。<br> ただ、私はシャボン玉が好き。<br> きっとシャボン玉が綺麗なのは、一瞬で消えてしまう儚い存在だから。<br> ――でも、今の私のこの胸の高鳴りは消えない。<br> <br>(この気持ちは、なに?)<br><br> それはきっと炭治郎が教えてくれるような気がする。<br> 今日は落ち着くだけでなにもなかったけれど、もしかしたら次の時には、炭治郎がこの気持ちの正体を教えてくれる気がする。<br> きっとそうだ。<br> <br>(炭治郎……)<br><br> この気持ちの正体を教えて欲しい。<br> だから私は明日もシャボン玉を吹くの。<br> この気持ちがシャボン玉のように儚く消えてしまわないように、貴方に教えて欲しいから。<br> だから私は明日もシャボン玉を吹くの――<br><br><br><br><br>おわり。
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